株式会社大善は福島県喜多方市に本社を置くロジスティックサービスを展開する企業。創業は元文5年(1740年)となり、代表取締役社長・矢部善兵衛氏で9代目となる歴史ある会社です。中期的な目標としてグループ売上100億円という目標を掲げ、M&Aに取り組まれている大善様ですが、M&Aにおいて最も重要なのは”人”であると語ります。従業員や取引先といったステークホルダー、社会貢献を大切にし、報徳思想を重んじてこられた大善様は、M&A戦略にもその想いが表現されていました。今回は有限会社コーワーカーズとのM&Aを中心にインタビューさせていただきました。
[譲渡企業]
有限会社コーワーカーズ
(本社:東京都江戸川区)
https://co-workers.co.jp/
2003年に現在の相談役である小瀬木修平氏が創業。人材派遣・倉庫管理・物流事業を3本柱として、近年は電気工事業にも力を入れている。総合物流を目標に掲げており、最後のピースとなる自社倉庫の所有を目指して、2024年に株式会社大善とのM&Aを選択。
[譲受企業]
株式会社大善
(本社:福島県喜多方市)
https://dzn.jp/
元文5年(1740年)から続く福島県喜多方市に本社を置くロジスティクスサービスを展開する企業。現在、代表取締役社長を務める矢部善兵衛氏は9代目となり、グループ売上100億円を目標に掲げている。2024年に有限会社コーワーカーズと資本業務提携を結ぶ。
300年の歴史を胸に、見据える先は「質の高いグループ100億」
株式会社大善の事業内容や従業員数について教えてください。
矢部副社長:株式会社大善は物流業をメインとしており、スーパーなど小売業向けの物流センターの運営、仕分けをした商品のルート配送が主となります。従業員数はグループ含めて510名、大善だけで300名ほどになります。(※従業員数は24年10月時点)
当社は両替商として元文5年(1740年)に創業し、現社長は9代目です。倉庫業においては戦後の農地改革のため小作米の倉が空き、先々代の社長が営業倉庫として政府米専売塩の保管に活かしました。それが大善創業の原点になっています。
経営理念についてお聞かせください。
矢部副社長:私の祖父の代から、会社経営において報徳思想、いわゆる二宮尊徳の教えというものを大切に掲げております。自分たちの私利私欲のためではなく、取引先であったり、従業員の皆様といったステークホルダーが幸せになるための経営となり、その先としては利益を世の中に還元することを目標にしています。
阪神大震災のときには物流業を営む者として何ができるかを考え、地域の有志と語らい、父が援助物資を集めて当社の車両で炊き出しに行ったことを覚えております。また、東日本大震災のときには、直ちに福島県に協力を申し入れ、福島県倉庫協会会員の指揮を執り、950か所以上の避難所に支援物資供給を行いました。まさにその報徳思想を体現した行動であると感じたのを、私も幼いながらに記憶しています。
M&Aを成長戦略に取り入れた経緯を教えてください。
渡部常務:7年ほど前から、銀行や大手M&A仲介から紹介が入るようになりました。もちろん、M&Aという選択肢は認識しておりましたが、当社としてこういった成長手法を実際に取り入れてもいいかもしれないと検討したのが始まりです。税理士の先生経由で入った案件に興味を持ち、進めて成約したのが当社にとって初となるM&Aでした。一件目を成約してからはプラットフォームを利用して積極的に推進しております。
新しい試みに対して、300年続く歴史ある企業ならではの難しさはありますか。
矢部副社長:代々業種転換をしてきていますし、幼い頃から歴代社長の功績を聞いて育ちましたので、自分も何かに挑戦しなければという意識が強くありました。だからこそ、挑戦に対しての抵抗は全くありません。 新しい試みのひとつとしてミャンマーへの進出があります。現地法人の立ち上げや10,000㎡の倉庫建設、運送サービスの展開に加えて、フォワーディングや通関といった新たな分野への展開を実現しました。
矢部社長:副社長が主体となって進めたミャンマー進出は意義のある新しい試みでしたね。2011年東日本大震災で色々お手伝いをさせていただくなかで、日本の技術と資本をより国際的なフィールドで活かせるのではと考えました。シンガポールやインドネシアなどを視察しながら、お役に立てることがあるかを模索していたのですが、その中で、ミャンマーで日麺の官民がフラッグシッププロジェクトとしてSEZ(特別経済特区)となる工業団地が開発されるという話を耳にし、進出を検討しました。当時のミャンマーはラストフロンティアと言われて脚光を浴びており、将来的なポテンシャルも高いので、物流業界でも複数の会社が進出を検討しましたが、いち早く事業認可をいただくことができました。
コーワーカーズは人材の宝庫、小瀬木前社長は素晴らしい経営者
有限会社コーワーカーズに興味を持たれた経緯について。
矢部社長:様々な企業様をチェックしている中で、アセットを持たずに経営しているという点に非常に興味を持ちました。また、あの規模の売り上げで毎年成長している会社というのは多くありません。そこが最初のきっかけでした。
小瀬木前社長とお会いした第一印象はいかがでしたか。
矢部副社長:小瀬木前社長のリーダーシップと従業員の力でこの規模まで伸ばしてきたことは把握していたので、どのような方なのか、お会いできるのを楽しみにトップ面談を迎えました。そして、実際にお会いして、「こういう経営者には人が付いてくるだろうな。」と小瀬木前社長のお人柄に惹かれたのを覚えています。
八代部長:経営者の評価には様々な要素があると思いますが、私は「いかに人材を残して次にバトンを託せるか」で経営者としての偉大さは分かると考えています。これはPMIを通して感じたことですが、コーワーカーズは本当に人材が豊富です。本来であれば小瀬木前社長のような、おひとりで会社を成長させてきた経営者の場合、社員の傾向に偏りがでるのが一般的ですが、コーワーカーズには性格や特徴的にも様々なタイプの人材が揃っているのです。それを小瀬木前社長はおひとりの人格でまとめ上げていたわけですから、本当に驚きました。素晴らしい経営者だと思います。
今回のM&Aで期待されている相乗効果はありますか。
矢部副社長:元々の想定としては近い拠点間で人材をコーワーカーズに派遣していただくイメージを持っていました。しかし、最近はそれ以外にもシナジーの芽が出ていると感じることが多いです。例えば、外国籍の方が活躍できる環境づくり、グループ会社間でのお客様営業などが挙げられます。他にもコーワーカーズが得意とするやり方で大善でも学びたいことがたくさんありますし、その逆として大善のやり方でコーワーカーズに導入したいものもあります。
また、コーワーカーズは社員の定着率を上げる環境づくりが本当に上手ですので、そこも参考にしたいですね。お互いに学びがあって、今後できることがたくさんあると感じているのは非常にポジティブなことだと思います。
M&Aは仲人も重要、プロとしての在り方を示してくれた
M&Aロイヤルアドバイザリーのコンサルタントはいかがでしたか。
矢部社長:M&Aというのは仲人も重要です。頼りがいのないM&A仲介会社もありましたが、非常によくやってくださったと感じています。
渡部常務:これまでM&A仲介会社とお会いするなかで、税理士、弁護士だけサポートで入ってもらえば、自分たちでも出来るのではないかと思うケースがありました。松木さんは人間性、向き合い方、人柄など、全てにおいてプロとしての在り方を示してくれました。
八代部長:当社は副社長の矢部、常務の渡部、そして私と常に3人でこのM&Aを進めてきました。よく松木さんは「3人の誰が欠けても、このM&Aは実現しませんでした。」と言ってくださるのですが、我々は松木さん含め4人でチームだと感じています。松木さんが欠けていても、このM&Aは実現しなかったのではないでしょうか。
松木(担当コンサルタント):大善様とのご縁は今回が初めてだったのですが、本件を進める中でももちろん、そして本日のインタビューを通しても、矢部社長や大善社の皆様からコーワーカーズ様への愛情を深く感じます。小瀬木前社長は本当に従業員様思いの経営者様で、M&Aを検討される序盤からお相手に求める絶対条件として、”私たちの従業員、コーワーカーズを愛してくれるお相手”に次を託したいと口にされていました。大善様が人を大切にされる姿勢は、長い歴史の中からも、そしてご両者面談の中でも伝わっていたようで、それに小瀬木前社長は大変喜ばれていたと感じます。
PMIの過程で大善社の皆様から、長い歴史を持つ大善様にとってのターニングポイントはまさに今だとおっしゃっていただいたことがありましたが、そのような意義深いチャレンジに仲人役として携わることができたのは、私としても大変嬉しく感じており、心から感謝しています。
質の高さに拘りながら、目指すはグループ売上100億円
今後のM&A戦略について教えてください。
矢部副社長:同じ業種であれば拠点間のシナジーがあるところで検討していきますが、物流業に限定してM&Aを検討していくつもりはありません。大善やコーワーカーズは積極的な攻めの営業というよりは、既存のお客様との信頼関係で成長してきた会社です。より積極的な展開をするには営業力やマーケティングの強化が必要と感じています。そういった、グループ会社全体で補完し合える体制をM&Aを活用して作っていきたいですね。
M&Aを進めるにあたり、特に重視されているポイントはありますか。
渡部常務:やはり、人を見るようにしています。今回のコーワーカーズさんとのトップ面談で小瀬木前社長とお会いしたときにも感じたことですが、従業員を大切にしている社長とお話しすると、従業員の方々も素晴らしい人たちが集まっているのだろうと思えます。サマリーだけを見て、経営に対して評価することは可能ですが、人を見るという点ではトップ面談がいかに重要かということです。
もうひとつは、我々が入ることでプラスに働くかどうかです。当社としては成長戦略としてM&Aを取り入れているわけですが、会社を託されるということは、成長や従業員の皆さんにとってプラスに働く必要があると考えています。
大善様の目標について教えてください。
矢部副社長:中期的にはグループ全体として売上100億円を目指していて、M&Aでの成長を考えれば現実的な目標だと考えております。ただ、100億円といっても質の高いものでなければなりません。数字の目標ばかりが先行して、会社として提供するサービスのクオリティが下がってしまっては意味がありませんので、高い質を前提としたグループ売上100億円を中期的な目標にしております。
矢部社長は50年後、100年後に向けて、どのようなお考えをお持ちですか。
矢部社長:これは代々続けている会社の経営者の感覚かもしれませんが、先代やこれまでの方々が創り上げてきたものをお預かりしていて、それを綺麗にして次の世代に渡すという意識があります。しかし、50年、100年先という未来は私が決められるものではないと思いますね。私の積んだ経験は次の世代に伝えますが、彼らもまた素晴らしい経験を積んできているので、彼らがその経験をベースに未来を創るはずです。
そして、会社はプラットフォームでありたいと私は考えています。もちろん、従業員の皆さんとずっと一緒にやっていきたいと思いますが、大善グループをステップに新しいことにチャレンジするという選択も尊重します。ただ、大善グループで働いて良かったと思えるような場所であり続けたいです。大善には同窓会がありますし、それは昔から続いております。社員を大切にする文化はそのままに、プラットフォームとして機能する組織でありたい。そう願っております。